囲碁は好きですか?

あなたに囲碁を好きになってもらうために、囲碁の面白さを伝えていくブログです。

囲碁は好きですか?

第43期棋聖戦挑戦手合七番勝負第七局 井山裕太VS山下敬吾

どうも!こんにちは。みやれーです。

3月15日金曜日、新潟県魚沼市「温泉御宿龍言」で第43期棋聖戦挑戦手合第七局が行われました。今記事では二日目の模様を振り返りつつ感想を書いていきます。一日目の手順については前回記事をご参照下さい。


前回記事

二日目

一日目は白番井山裕太棋聖が50手目を封じました。対局開始当初から気迫の篭った応酬が続いていましたが、二日目もまた朝から、対局者の闘志溢れる着手が続きます。まずは封じ手から見ていきましょう。


黒番 山下敬吾 白番 井山裕太

封じ手

封じ手は白1のアテでした。大本命でしたが予想当たりましたね。

実戦図1


黒4(白3の上)

ただ黒4と外を切ったのは意外でした。前回の予想では先に黒6と内切りで打つ図を出していましたが、山下九段は実戦がより良いという判断です。

参考図


黒2(白7の地点)

実戦で外から切ったのは、黒2には白3と対応されるのが嫌だったからに他なりませんが、黒8とカカえるシチョウは黒有利なので、僕はこの図で不満無いのかと思っていました。しかし山下九段のことですから、白9付近のシチョウアタリが利いて右辺の白石が攻めにくくなるのを嫌ったのかもしれませんね。

実戦図2

黒1のアタリに対し、白2とアタリに仕返したのが上手い。結果黒3、5と突き破られてしまうのですが、白4、6で隅を確保しつつ、黒石にはっきりとした二眼がありません。白2は気付きにくい応手ですが、地と攻めの狙いを持った良い手でした。

実戦図3


黒9(白6の左)

黒1から先手を決めてから、黒13で右辺の攻めに回りました。少し左下の分かれが白有利ということもあり、黒は右辺の攻めで得を図りたい局面なのですが、まさかここから囲碁史に残る大激戦が始まるとは、夢にも思いませんでした。

実戦図3

黒6と置いたのが事の発端。なんと山下九段は右辺の白石全てを取りに行ったのです。「攻めて得を」ではなく「攻めて丸取り」を狙いに行ったのです。流石日本囲碁界一の剛腕で知られる山下九段。考えてることが激しいですね。

黒18とハネた時点でこの白石には二眼が出来ません。 現時点で16個もの石が連なる大石ですが、助けるために中央を脱出するしかないのです。

実戦図4

白1、3、5が白に残された唯一の筋。黒は切る事が出来ないので包囲網を張り直します。

参考図1

白1への対応として、黒2が初めに浮かびますが。次図へ。

参考図2

白8の薄みがあるので外側の黒石が耐えきれないようです。

参考図3

白3に黒4と出ると、白5で切りと脱出が見合いです。

参考図4


白1(黒12の地点)

黒6と出るのも白13の薄みが響いて黒が崩壊します。

こうして見ると、意外と黒の包囲網に穴がある事がわかりますね。実戦が一番際どい勝負になります。

実戦図5

白9、11で黒石が切断出来たので、その薄みを使ってしのぎを目指します。まずは白13で右上の黒石へ迫りました。

実戦図6

黒1では中央を補強して安全に行く道をありましたが、右辺の白石を無条件で取りに行くために黒1を選びました。

白4、10が来たので今度は中央の黒石が切れました。

参考図

黒1が一番安全な手。しかし白2、4で少し頭が痛い。一応黒5とハネ妙手があってコウになりますが、これは不満と見ましたね。男山下九段は無条件取りを目指します。

実戦図7

黒1が手筋で脱出形。白2と打たねば逆に白が危険です。

しかし黒は中央に弱い石二つ。右上も放置では死になので黒9と手入れ。なかなかに忙しい状況です。お互い必死の攻防が続きます。

実戦図8

黒1と切って反撃。この黒1、3を上手く囮にすることで、黒5、9と先手で中央の黒と左下の黒を繋げることに成功しました。左下の黒石は二眼が確定していなかった弱い石なので、ここと繋げれたのは大きい。

そして黒11がとても大きな一手。約10目の手ですが、白から打てば先手だったこともあり、ここに回られたのは白にとって痛手でした。このあたりで黒が上手く立ち回り、黒に流れが傾きつつあります。

参考図

白1はいつ打っても先手でした。しかし黒2と代わると白石の手数を少なくしている意味があるので、もし中央との攻め合いになった場合、この「先手」が大問題になる可能性がありました。なので井山棋聖は打ち渋ったのでしょうが、実際は白1は決めた方が良かったようです。

実戦図8

残る問題は中央の黒一団であり、これを生きれば右辺の白石は全て取れそうです。しかしここで打たれた黒8は不可解な一手。当然9の地点へ抑えるべきで、そうすれば上辺の白石に眼が無い関係から、黒のしのぎは用意だったと思われます。白は9にノビれてチャンスが生まれました。

やはり最終局の重圧でしょうか。優勢を目の前にして山下九段の着手が震えています。

実戦図9

黒1で白二子を取り込んだ時、白2とツケたのが厳しい追及。この一連の着手には大きな狙いが秘められています。

参考図

部分的に白1、3と打てば、なんと中央の黒石に二眼のスペースが出来ません。右辺の白との攻め合いも際どい勝負で、単純に攻め合うと黒有利なコウになるものの、形勢は一気に白逆転に至ります。ただ実際は参考図の黒14に切りがあるおかげで、ギリギリ黒に生きがある状況なのですが…。

実戦図10

この瞬間白1にツケるのが妙手で、次に中央を攻めに行く手と、4の地点から切断する手段を見合いにしています。後術しますが、結論黒は2に受けるしかなく、白は4に切って成功…と思いきや、このタイミングで白3とマゲたのが地味な勝負手でした。これは黒から3の点に打たれる先手のヨセを、逆に先手で打ってやろうという意図で、もし黒が受けてくれれば先手で「2目」の得になります。それは嫌だと反発して黒4と連絡。白は5とトビ込んで隅の黒石の眼を奪います。

たった数手ですが、ここで大きく碁が動きました。

参考図1

黒2と受けた場合の図。前述した通りの展開になった時、今度は黒16に対して白17で受ける手があります。この図は白逆転ルートでした。

参考図2

もし白1と切っていれば、白は左下を全て取り、黒は右辺を全て取るフリカワリになっていました。実戦で問題になっていたのは黒2の先手ヨセなのですが、真偽は定かではないものの、この局面をAIに読ませたところ、2の地点を先手で打てた方が形勢有利になるという結果が出たそうです。もしそれが本当だとすれば、井山棋聖が打った2の地点のマガリは、本当の意味で起死回生の勝負手だったことになります。おそらく長年培ってきた勝負勘がそこへ指を呼んだのだと思われますが…、にわかには信じがたい事です。

実戦図11


黒7(白2の右)

隅の死活は黒有利な一手ヨセコウになりました。とはいえ黒の借金であることに変わりありません。

実戦図12


黒1(黒7の地点コウ取り)
白4(黒7の上コウ取り)

白2には黒3と抜き、白8に黒9と逃げ出したのは強烈な頑張り。しかしやや暴走だったようで、黒3では8の地点に打つのが正しかったようです。

実戦図13

黒10と打つことで右下の隅の黒は生きました。そのかわり中央の黒石の眼がなくなりましたが、右辺との攻め合いは如何に。

実戦図14

黒24と手を伸ばし、この超大石同士の攻め合いはコウ付きではあるものの、黒有利が確定しました。ここまでたどり着くに至り、山下九段は二日目開始からの悲願であった、右辺白石の丸取りに成功したのです。

実戦図15


白3(黒4の上)

激闘ここに終結。右辺から盤全体に及んだ末、黒が取った白石29子。ようやく観念したように黒の手中に収まりました。

出来た黒地はちょうど90目。そして出来た白地も、ちょうど90目です。

実戦図16


黒1(白20の地点
黒3(黒19の地点コウ取り)
白6(黒19の右コウ取り)

まるで魔法のよう。

ここまで右辺の白石を巡り戦闘を繰り広げ、結果黒が白石を取り切ったにも関わらず、現在の地合いは白有利。黒地が右辺にしか無いのに対し、白地が上辺、右辺、中央、下辺で稼いだためこの結果を生みましたが、理屈で聞いても頭が理解してくれません。何故この碁で、この結果で白が勝てるのか。そして両対局者はどこまでわかって着手を続けていたのか…。

この対局は囲碁史に残る名局として語り継がれることとなるでしょう。

実戦図17


黒8(黒28の地点)
白9(黒10の上)

黒32完。白6目半勝ち。


結局黒の取った白石は全部で45個でした。それだけ取っても負けることがあるのですね。結果的には、井山棋聖の「捨て石作戦」が上手く決まった形となりましたが、僕は観戦していて、これを捨てるつもりだとは全く気が付きませんでした。

本当に感動しました。僕の囲碁人生で一番の感動かもしれません。素晴らしい世界を見せてくれてありがとう。

まとめ

最終局は井山裕太棋聖の6目半勝ちとなり、第43期棋聖戦は4勝3敗により、井山裕太棋聖が防衛、七連覇を達成しました!

棋聖戦での連覇記録は小林光一名誉棋聖の八連覇が最長とのことで、井山棋聖は来期がその記録に並べるかの挑戦となります。


本シリーズを振り返ると、開幕から4戦で井山棋聖の3勝1敗となり、やはり勢いからも井山棋聖盤石の防衛かと思われましたが、そこから山下九段が気迫の2連勝。そして第七局がこの圧巻の内容です。誰もが認める名シリーズとなったことでしょう。

また、今シリーズは山下九段の強さが光りました。特に第二局は今まで見てきた山下九段の棋譜の中でもトップを争うぐらいの名局であり、第六局も劣勢の局面をギリギリで踏みとどまりながら最後に逆転する勝負師根性を見せつけています。第七局も敗れはしたものの、井山棋聖と作り上げたこの大名局に誰が文句を言えるものか。シリーズの勝者は井山棋聖ですが、僕には山下九段の印象がとても強く残るシリーズだったように思えます。

平成四天王山下敬吾。時代はまだ彼を離してくれないのかもしれません。




最後まで読んで頂きありがとうございます!この記事がいいと思ったらポチッと応援よろしくお願いします↓m(_ _)m


囲碁ランキングへ

Twitterでブログの更新情報等を発信しています^ ^


YouTubeチャンネルはこちら!